枚方LRT研究会第3回総会

2000年5月22日

特別講演 「LRTとまちづくり」

東京大学名誉教授 新谷洋二氏が語る

新谷先生 経歴紹介
 先生は1930年に東京でお生まれでして、東京大学工学部土木工学科を1953年に卒業され、55年修士課程を終えられまして、その後北海道開発局、建設省の都市局を経まして、1965年から東京大学助教授、78年から教授、91年に御定年をお迎えになって、今年の春まで日本大学工学部で教授をなさっていました。
 東京大学の助教授でいらっしゃるころに、建設省など中央官庁の委員会その他で、この枚方の土地にも何度かおこし頂いて、お聞きしますところによりますと、楠葉の基本設計に先生のご指導をいただいた というふうに伺いました。
 それでは新谷先生からご講演をたまわります。「LRTと街づくり」ということでお話をうかがいます。
 それでは、先生よろしくお願いいたします。(「枚方・LRT研究会」代表 長山 泰久)
目次

始めに

 新谷でございます。
 ただいまいろいろご紹介にあずかりましたけれども、わたしは大学の時から、都市交通あるいは都市計画という問題を主に45年間やってまいりました。

 また先ほどお話のように、お城のことが好きになりまして、お城が好きになったのは、大学3年生のとき、大阪城を観光バスで通ったときに、雨のしとしとと降る、しかも戦災と台風で、屋根はぺんぺん草が生え、壁は穴があいたやぐらの姿を見て、ちょうど私は敗戦っ子ですから、そういった感じで仲間がここにいるなということから城が好きになりました。

 それから全国の城のことをやっておりまして。ただ趣味でやっておりまして、ところが最近では、だんだんそれが、森田先生と一緒に研究を始めてから、城のことを堂々と本職と一緒にやるようになって、城見学て言われましたけれども現在城の解剖学、整形外科、こう言ったことで今金沢城、江戸城そこらあたりの石垣整備をやっております。

 LRTの問題というのは、ここ5年ぐらい。公共交通については、私30年くらいやっておりますが。
 今回長山先生から、私が歴史的な街づくりの話をしようかといいましたら、それもいいだけどLRTも両方といわれましたので、しかしいろいろ考えてみると、1時間15分で両方話すということは二兎追う形になってきましてなかなか難しい。その接点を説明するには3時間かかるということで、今日はLRTに専念させていただくということにしました。

 LRTの問題というには、今回資料をいただきましたら、広島電鉄の中尾さんは長い付き合いで広島に行ってもお話をしていますのでそこらあたりの感じもわかります。

 去年の今ごろ東大の太田先生が話されてますが、実は私が東大にいた時の助教授が太田先生でして、ですから現在もLRT問題を東京でやっている研究会は仲間でございますので、また、これで屋上屋を重ねては困るので、いかに整理して話すかということをできるだけ注意いたしますけれども、やはり基本的なところは同じところがあるということはごりょうしゃいただきたいと思います。

 今日のお話の内容といたしましては、都市と交通がどういう関わり合いがあるのかということをお話したいと思います。

 街づくりと交通づくりというものは一体化しないといけないということですが、欧米の都市における公共交通に対する考え方というのは、皆さんがフランスのストラスブールに行かれてLRTを見るといいなと言って、日本でも入れたいよと。ところが、皆さんもご存知の通りそうは問屋が下ろしません。なかなかできないんです。どうしてできないのか。一番根本的なことは、国における公共交通に対する考え方が、ヨーロッパあるいはアメリカといった諸国と日本とでは、根本的に違います。はっきり言うと日本は30年遅れています。

 この30年間にヨーロッパ、アメリカ諸国がどのような政策をしたのかということを、ここでお話いたします。
 そういった中で日本の路面電車と欧米のLRTが機能、システムとしてどういうふうに違うのか。
 4番目にフランスと、ドイツのLRTの実例、
 5番目に今後の取り組み方、今後の課題ということで日本が抱えてる問題をどうしたらいいのだということで、つい5、6年前、都市計画中央審議会で街路部会長をしていたとき、ここでLRT問題をやっておりましたので、その考え方を改めようと決めた結果、路面電車の軌道敷をガソリン税でつくるというルールがようやく建設省で実施されました。そんなところで考えますとどういう問題が残っているかとういことで、お話をしていきたいと思います。

生活と交通のつながり

 われわれ人間が24時間何をして暮らしているかと申しますと、家に住み、勤務先で働き、学校で学び、ということでやっています。

 その中でいろいろと憩うということで24時間過ごしているはずです。

 そうすると都市の中で大勢の人たちが、1日の中で住み、働き、憩うということを快適に行うためには、第4番目の機能として重要なのが、移動するすなわち交通であります。

 ですから交通というのが住み、働き、憩うということを快適に行うための重要な手段であって、交通がないと、住み、働き、憩うということができない、こういうことで、交通というものがわれわれの生活と密接な関係があるということをおわかりいただきたいと思うんです。

都市交通の空間利用と公共交通

 さて交通といったときに、
 これはイギリスの例(図―2)ですけれど、日本と変わりません。交通手段といったときに、われわれはモータリゼーションの中で自動車を愛用していますけれども、自動車にたとえば60人の人、この人を乗せて動かすとすると、1台当り1.2人乗っていますので、大体50台の自動車がいるわけです。

 ところがこれを2階建てバスに乗せると1台ですんでしまう。

 このように公共交通機関のバスがあると、50倍もの威力を発揮するんです。これを路面電車、あるいはLRTとなるとさらにバスの2,3倍の威力、さらに鉄道になりますと、何十倍の威力という形にかわってまいります。

 われわれが持っている交通手段を地球上のある空間を利用して移動するときは、うまくこれを按配していくことが重要だということがわかってくる。

 但し、こう言ったことで全てが成り立つんではなくて、通勤時の段階ではこう言う理屈が成り立つ。

 たとえば、昼間になりますと、ブラウン運動になりますので、業務とか、私的な用事とかいうことで、そうなると必ずしも全部バスにすればいいという話じゃなくて、乗用車がいい。それぞれうまい特性を使って使いこなしていくことが大事だということになります。そこが都市計画との問題で、どういう問題になっていくかと申しますと。

 これは問題解決策ということなんですけど、左側が土地利用です。右側が交通施設です。それを秤にかけたときに、これがバランスしないかどうか、いわゆる土地利用が適切であるとそこから出てくる交通発生量をいかに交通施設で、うまく受け持つかということがバランスしているかどうかと。そのときに一番目の話としては、土地利用の分散ということで、土地利用が過大であったら、すなわち密集した市街地であったら、土地利用を分散することによって、交通施設というのは既存施設を利用することによって、バランスするという。

 第二番目の策は乗用車の最大利用とありますけど、今みたいなモータリゼーションで自動車がどんどん増えていくと、そう言った段階で土地利用を、このままにしておくとすれば、赤いところが道路整備をしなければいけない。

 緑のところが駐車場を整備しなければいけない。要するに道路整備と駐車場整備が乗用車の増大にかなうだけ設備投資できるか、こういうことになってくるわけです。

 三番目の右の上のほうになりますと、公共交通の強化ということになります。ちょうど道路じゃなくて、公共交通でがんばろうとすると、公共施設の投資を公共交通の青色のところに持ってきて、土地利用とバランスをする。この一番,二番,三番、が極端なケーススタディーでございます(図―3)。

 それに対して実際の策がどうなるかというと、最後の右下のところが総合的な交通システムとありますが、土地利用の分散をある程度しないといけないだろうと、既存都市では。道路をつくらなければいけない。駐車場もつくらなければいけない。公共交通も強化しなければいけないということで、こういった総合策といったことを考えるんで、1,2,3はわかりやすくするためのケースであると、なってくるというのが、これが1960年代にイギリスの研究において行なわれたわけでございます。

日本の交通政策の歴史

 さて道路交通政策というものを歴史的に振返ってみますと、昭和30年代においては、どれにだったら国の税金が投入できたかという話。

 30年代は交通の円滑、効率化ということだったらガソリン税を投入して建設できました。安全のためといっても一銭も出ませんでした。

 昭和40年ごろになると、モータリゼーションの結果、交通事故が1万人という問題が出てきました。この交通事故の死者数1万人をいかに減らすかということで、交通安全対策というものが考えられて、安全に対してガソリン税が投入されるようになりました。

 40年代の後半になりますと、自動車公害、環境問題というものが起きてまいりました。各地で道路建設反対運動がおきてまいります。そこで環境ということを考えなくてはいけない。

 昭和50年代になると環境基本法ができ、環境のためにも道路建設としての環境対策として沿道に対してお金が投じられる。こういう話になってまいりました。

 1973年にヨーロッパのOECDで日本の環境政策というレポートが出ます。そこで「日本は環境対策としての局地戦争には打ち勝ってきた、しかしいまだ戦争では勝利をおさめてはいない」こういう皮肉なレポートがでました。

 それはどういうことかというと、日本は一生懸命交通安全とかやっているけれども、環境も騒音対策とか排ガス規制とかをやりはじめたけれども、一番肝心なアメニティがわかってないんじゃないか。

アメニティとは?

 地球の環境、いわゆるわれわれ世界の環境ということを考えると、アメニティである。アメニティというものがその結果昭和60年代から平成にかけて、これが重視されてこれにガソリン税が投入された。

 アメニティというものはわかりにくいので、どういうことかというと、アメニティというのは快適性とか心地よさとかいってますけれど、なかなか翻訳できない。

 説明するところによると、しかるべき物がしかるべき所にある、どういうことなのかというと、たとえば、にごった工場地帯におけるおいしい空気、夏におけるそよ風、冬のさんさんたる太陽の暖かさ、これがアメニティなのです。

 したがってアメニティは計量できない、貨幣価値で換算できないものということで、それをわれわれが一生懸命分析してわかりやすくすると、人間の生理的な意味の環境、眼で見る視覚的な景観、頭脳で認識する歴史文化、こう言ったものを含んだものがアメニティである。従来計量で考えていたものだけでなく、非計量的なこういうものを重視しなくてはいけない。

 そういった中で現在21世紀を迎えるにあたりまして、大きな課題は地球環境、地球環境というのはただ環境ではなくて、南北問題といいますけれども、世界で8割の富を持っている2割の先進国民と2割の富しか持っていない8割の発展途上国民の間で、地球の環境を大切にするために、富の分配、再配分をどうしたらいいのか、こういう話をふくんでおりますので、なかなかむずかしい。

 そういったことの一環として、先ほど先年京都会議でCO2対策の問題が議論されておりましたけれど、その話もまた後でいたします。

TDM施策とITS

 そういったことからわれわれが、交通問題ということを議論する前に、最近重要になってきましたのは、TDM(交通需要マネジメント)(図―4)ということが盛んにいわれるようになりました。

 それはどうするかというと、自動車の効率的な利用として、相乗りを利用するとか、経路の変更をするとか、フレックスタイムということで、時差出勤をするとか、集中源を分散させるという発生源の調整の話もありますけれど、なかでも有効なのが手段の変更、先ほどからお話しております、乗用車から大量輸送機関に乗り換える、そうするとわれわれの道路や鉄道の交通空間の混雑しているのを有効に使うことができる。

 今一生懸命、各省が努力しているのが、ITSという形でいかに自動車交通の科学化をしようかということ。

 いわゆる今までの自動車は、人動車 人間が動かす車ですけれども、それを本当のオートマチックでコントロールされた自動車に変えていこうというのが、21世紀の課題だと思っています。

 では公共交通に対して日本はどうなっているんだろうかということですね。

移動性の確保に対する考えの違い

 これは仙台の鉄道網の図です(図―5)。橙色で書いてあるのが既設路線です。緑のところや赤いところは現在計画検討(計画、候補・構想路線)されているものです。橙色だけで考えますと仙台は100万都市ですけれど、7路線が仙台駅を中心としてございます。

 ところでドイツのフランクフルト(図―6)に参りますと1960年頃はほとんどたいした鉄道網はなくて、路面電車があって、そのころ一生懸命路面電車を壊して地下鉄をつくっていた。

 現在フランクフルトは人口80万の都市ですが、実にUバーンという鉄道網これは地下鉄の類ですね、これが7系統。Sバーンというのは連邦鉄道ですから日本でいうとJRにあたる都市鉄道ですがこれが15系統、あわせて22系統ある。

 仙台とフランクフルトは人口規模においてほぼ同じ位の都市です。仙台がようやく7路線を、8路線目を造ろうとしていますが、苦労しています。

 それに対してフランクフルトはこの30年間に3倍の系統の都市鉄道を造っております。なぜだろう。しかも乗るとすいています。ですから日本から見学に行くと、皆さん、「あつ、ガラガラだ。よくやっていけるな。」とといってます。それが根本的な誤りなんです。

 それは、なぜか。外国人を日本に連れてきます。そして、東京、大阪で電車に乗せると、「こんな満員で人間無視じゃないか。よく皆こんなのに乗ってられるな。」といいます。

 外国は国民たち、あるいは都市住民の行動の自由を確保しようという考え方で、税金を投入しています。ところが日本は、企業の採算性こそ国の重要なことだということで、企業本位で造っています。ですから仙台が3倍もの鉄道を造るなんてことが、とんでもない、ということになります。

日本での採算性と利用客数

 2番目の話に入りますが、モータリゼーション社会で、軌道系公共交通システムを都市へ導入するということの判断要素というのは、われわれ学校でどういうふうに教えたり、あるいは一般の人や政府の人もどう言っているかというと、必ずうたい文句に、公共交通システムの採算性、道路交通渋滞の解消、環境悪化の改善、エネルギーの効率性、都心部における商業・業務の活性化、高齢者・身障者のサービスこれは交通機会の平等ということですけれども、それと都市の景観、地域的適応性、こういったことですけれども。こういうのが白書なんかであがっています。

 しかしわれわれが、技術的にですね、軌道系公共交通をつくろうとすると、その認可に値するのが、公共交通システムの採算性、これだけです。これ以外のことを言っても、これがだめならすべてだめです。

 それから最近では、道路交通渋滞の解消ということが少しずつ言われるようになってきました。そのために多少ガソリン税が入るようになりました。しかし環境悪化の改善で一文も出ません。黄色いところは日本では一文も出ません。

 ですから外国は、これ全部いけるんです。そこの違いが政府の方々の判断が違うわけです。それでは日本はだめなのかというと、日本は、はっきり言うと、世界では利用客の率からいえば、エースです.相撲で言ったら横綱から幕内、十両を占めているわけです.

 順番に申しますと、左のほうからまいりますと(図―7)、日本では、だいたい1日1kmあたり、縦軸が利用客ですから3万人、東京。その次に大阪です。それから、低いのが横浜とか神戸などで、神戸ではだいたい1万人です。

 ですから日本では評判が悪くて、テレビなんかのマスコミで、採算性問題が議論されていますけど、なぜこんなに成績が悪く赤字であるかって、まだつくるのか、アナウンサーたちや識者が悪口を言っています。ここが問題なんです。

諸外国での利用客数

 それではイギリスはというと、その悪口を言われる横浜や神戸の半分です。5千人です。それからフランスで1万人ちょっと。ドイツが5千人から7千人、イメージはちょっといいですけど。右上のところがアメリカで、ニューヨークで7千人ぐらいで、シカゴになると3千人です。低いでしょう。

 で高いのは、だいたいのところ、下から2段目のところがソ連圏ですから、だいたいロシア、モスクワとか3万人で、東京とモスクワはよく似ています。それから一番下が東欧か、あるいは南アメリカ、こういうところで、これで見ますと東欧圏、それから南アメリカ、そういったところ、だいたい2万人、3万人を運んでいますので、格から言ったら幕内、十両に入ってきます。

 でヨーロッパのイギリス、フランス、西ドイツ、あるいはアメリカは全部、よくて十両、だいたい幕下以下というのが実状であります。

 ところが、その幕の内にいる、横浜や神戸が悪口を言われている。そして幕下や三段目にいるドイツ、イギリス、フランス、アメリカが、ゆうゆうと新線を科学技術の粋を集めて現在建設していることを考えると、何かおかしいと思いませんか。

 それは私は東京が、大阪が、モータリゼーションの国のくせに鉄道がすぐれているためなのです。これは既存のストックがあるからです。すぐれているために、他の都市がみな無視されている。もしヨーロッパ、アメリカ並みに判断すれば横浜、神戸は実に、幕の内の上位クラスの優秀な連中。ところが、それがマスコミでさえ文句を言われるように問われているということが、日本の中の政策的な判断の根本的な誤りを、19世紀以来変えていないからだということですね。

欧米諸国の研究と決断

 これはどういうことかと言いますと、だいたい1960年代にイギリスで、都市における自動車交通の限界ということが議論されまして、イギリスのブキャナンという人が自動車保有1000人あたり550台、(現在日本ではこのレベルを超えました)と言う状態で、大都市でいっせいに使用できるような道路計画を立てることは、物理的にも財政的にも不可能で、大量輸送の達成が必要であることをちゃんと明言しました。その結果、イギリスは法律や財政制度を変えて方向変換いたしました。

 それからペンツェンというデンマークの学者は、1000人あたり500台の乗用車を保有する状態で、自由に都心部へ乗用車で往来できる新しく計画された都市は、人口25万が限度。要するに人口が25万よりも多くなったら、計画的にやっても、絶対に自動車だけで処理できる都市は、つくることは不可能である。こういうことを理論的に計算して説明しました。

 さらに今度は、スミードというロンドン大学の教授ですけれども、今度は既存都市に道路率が14%の既存都市で、(これロンドンです)都心へ自動車だけを利用して通勤できる限界は2.4万人。それ以上になると、公共輸送機関の達成がどうしても必要になり、通勤時の数が3万人になると乗用車で通勤できるのは、その90%、2万7千人しかできない。通勤者が10万人になると、乗用車の割合が50%以下になってしまう。公共輸送への依存度は、ますます高くなる。こういったことを計算によって、このスミードという人が、現在東京の石原知事がさかんに言っています、ロードプライシング、東京の中心地区に対しての自動車の流入を規制しようって言うんで、大きな騒ぎになっていますが、そのロードプライシングを唱えた学者で、もうすでに1960年代、今から30数年前に提唱された話です。

 その結果、大中規模の都市では、全市民が乗用車を利用して自由に移動することが不可能であり、当然市民の何%かは大量輸送を利用しなければ、都市の道路交通は渋滞して動きが取れなってしまう。乗用車から大量輸送に乗り換えさせるためには、乗用車と競争しても、速くて、安くて、便利で、快適で、使いやすくて、総合的な公共交通システムが必要だと。日本のは、遅くて、高くて、不便で、不快で、使いにくくて、こういう個々ばらばらな公共交通システムですから、話にならないわけです。でその区間には、軌道系公共交通システム整備が、要するにバス交通をいくらやっても、いわゆるだめなんですね。軌道系公共交通システムを軸にして、バスが駅から端末まで輸送する、と言うシステムをつくらなければならない。

 で採算が少し取れないといって整備しなければ、交通問題は解決しない。都市の拡大とともにますます悪化していかざるを得ない。したがって公共交通が、採算が取れないからといってやめてしまったら困るということがわかってきたわけです。

 その結果、1970年代の欧米諸国の決断は、こういう結果になったわけです。都市の公共交通は健全に経営すれば、従来は企業として成り立つよい企業であった。しかしモータリゼーションが進んだ現在、いかに健全に経営しても、採算が成り立たない。赤字になってしまう。赤字のためにやめれば、都市社会が成立しない。国が二次、三次産業に依存して、都市に人口集中していくのだから、都市社会成立のため、赤字の公共交通に税金を投入しても、維持、運営していくべきだ。こういうことで、1970年代から、各国は税金の公共交通への導入を始めまして、それから企業の再活性をしました。アメリカは1970年法で、ガソリン税を交付金として渡すけれども、自治体はそれで道路をつくろうと、鉄道をつくろうと、バスを買おうとかまわない、こう言ったわけです。ドイツは、増税したガソリン税の6分の1は公共交通に充当するということになりました。そういうように、どんどん政策転換していったわけです。

日本での軌道系公共交通システム

 今我々がいろいろ考えているんですけれども、トリップの交通の長さと、それから、利用者の密度との関係について考えますとこういう分布になるんですけれども、日本で今欠けているので欲しいシステムっていうのは、何かといったら、地下鉄、新交通、それから、バスの中間的な乗り物、これが欲しいわけです。ですからよく言うんですけど、ゴルフ道具でいったら7番アイアン。「7番アイアン無しに優勝して来い」と言われたって、困っちゃうね。5番と9番、あるいは8番と6番を使い分けるったら、難しいよなあ。そういうことで、まあ正確にいうと6番、7番、8番が無いことに例えられる。

 で、アメリカなんかで考えてると、新交通のところで最近出てきたのは、こういう今ほしいっていうところが、赤印のとこなんですね。それは何かっていうとLRT、こういった問題が新しい考えとして、みなここが欠けてるということで、最近の技術革新によってこのLRT問題が出てきた。

 日本で、軌道系公共システムってどんなもんがあるんだろう。こういうふうに見ますと、ここでですね、簡単に見ますと、ひし形のところに黄色く書いてあるのが、日本で現在手に入る公共交通システム。それに対して、赤で塗りつぶしてあるのは日本ではまだ建設途上か、手に入らないシステムです。上で地下鉄それから、都市モノレールで新交通システムとありますけれども営業していないのがLRT(ライトレールトランジット)ついでによくマニアの方は、LRTはアジアでは、熊本と広島にあるとこう私に言ってきます。あれはLRV(ライトレールビークル)であります、と。トランジットではありません。トランジットはシステムですから。だからだめなんです。
速度7、80km/hで、登坂能力80‰っていうものは、日本では実現できません。ですから、熊本のLRVは、走行速度40km/h、登坂能力40‰以上のことはできないかたちで、法律でできてもやらせてくれないわけです。

 それからHSST、これは大船ドリームランド線でできるようになりかかったんですけれども、HSSTというのがなかなか難しくて今だいたい、名古屋の東部丘陵でようやくやろうかって言ってますけれども、まだまだいろいろと問題があります。

 で、ガイドウェイバスこれは現在、名古屋の志段味線が建設中で、来年完成しますが、何を申しましょうか、このガイドウェイバスの生みの親、発想者は私でございます。だが、発想者がこれははっきり言うと、臨時の助っ人だと。本当はもっといいものがいるんだから、されど今の状態ではできるということでは、しょうがないと。

路面電車とLRT

 さて今度は、3番目の話になってまいります。これが皆さんご存知のように日本全国19都市20システムという、路面電車が北から南まで、このような赤点のところに残っております。本来は60都市ばかりあったんですけれども、その3分の2は、昭和30年代の後半以来、路面電車をつぶすことが正義であるということで、みなつぶされてきたわけです。

 何を申しましょうか、私もそのころはそうだと思ってたんですけれども、それから5年後にヨーロッパへ行って、「あれっ、路面電車消えていると言ってたのに、残ってんじゃないの」って「あー偽の情報だった」っていうことから、路面電車を、もう一回復活させようと、戦犯が罪滅ぼしをしなきゃって、今やってますけれども。

 これが日本で最古の路面電車(写真―1)、原爆電車と言われる、原爆のころに活躍した広島の電車が、実に80年の歳月をがんばりながら、今でも動いてます。ですから日本は、どうもレトロなんですね。郷愁、マニアのための路面電車で、これでは話になりません。

 これが岡山の路面電車です(写真―2)。これで見てわかるとおり、これのそばにいけると思いますか。私はこの止まっている時でも、あのセキスイツーユーホームっていうね、書いたあのわきに行くと、巻き込まれて、足が切断されたらって、怖くてしょうがありません。怖いんですね。ちょうどやさしい路面電車も、不気味な刃物を持った路面電車って感じがするんです。これではだめです。これが19世紀の遺物の路面電車です。

 それに対して、みなさまもご存知のストラスブールの路面電車(写真―3)、これを見せると、子供たちがまた「新幹線」ってこう言います。で、これだと、スカートをはいていて、そばまで行っても、何の抵抗もなく触ってみたりしてるぐらい愛される路面電車。次はアドトランス製のもの、熊本に入ったLRVの兄さんです。

日・欧・米システム比較

 さてここで、それでは、日本の路面電車と欧米のLRTが何が違うかということを比較対照してみようと思います。それは、システムとして考えると、日本のは、20世紀の初中期型の思想によって、技術によってつくられました。欧米のLRTは、それが近代化されて、21世紀を目指したかたちで、技術革新のかたまりとしてつくられてます。

 最高速度は、日本のは40km/h以上出せません。向こうは70km/hから80km/hっていうかたちで出せます。表定速度は、日本は10〜15km/hです。向こうは20〜40km/hです。倍です。それから登坂能力は40‰。これは1000m行って40m上がる。向こうのは、80‰。ということは、この日本の登坂能力だとそこらあたりの道路の立体交差がありますけど、道路と交差したり、あるいは線路を超えたり。あれがだいたい3%がゆるい基準で、実際には7%,すなわち70‰ぐらいでつくってます。そうすると日本のは、登れません。登れても下れません。ブレーキが利きません。

 で、欧米のLRTだったら、日本の立体交差、平気で越していきます。それくらいの能力の違いがあります。で、車両長は、日本は法律によって30m以内、1,2両連結に拘束されています。それから、ヨーロッパのは70m以内1〜4両連結ですけれど、実はアメリカやなんかで最近つくったのは、100m以上の長さので、6両連結とかっていうものまで現れています。

 それから、輸送力ですけれども、日本のはだいたいこの程度ですと5千人〜8千人、1時間に運ぶのがいいとこです。で、欧米のLRTは、これは連結両数とか運転間隔の問題によりますけれども、輸送力5千人〜2万人ということですね。

 それから、騒音、振動は、日本は鉄輪で、鉄軌道ですから、うるさいです。向こうはゴムと合成樹脂でつくられていますから静かです。

 その次は、高齢者、身障者対策ですけれども、日本の路面電車は高床式で7,80cmあるので、「1、2、3」と、「よっこらしょ、よっこらしょ」と上がらないとだめです。欧米のはだいたい平均して30cm、ウィーンなんかは17cmっていう低床式なので、うば車でも、身障者の車でもみな上がれます。

 それから、料金の収受が、これが一番重要で、難しいんですけれども、日本は運転手さんのワンマン受け取りです。向こうはチケットキャンセラーシステムで、自己責任において、自分で切符を買ってパンチを入れて、乗って勝手に降りちゃう。ですから、乗った口から動く必要がありません。ところが、日本は乗った口から、必ず降りるときは、運転手のところまで歩いて行かなきゃいけないので大変です。例えば、熊本のLRV、あれは通路の幅が60cmでした。ところが、それでは車いすが通れませんので、その幅を80cmに拡大して、座席を3分の1削ることによって、つくってきました。ばかげたことです。

 交差点信号は、日本は普通どこでも信号にしたがって停止するのがあたりまえです。欧米は優先信号ですから、交差点で停まるということはありえません。そして通過してしまいます。停まるのは停留所だけです。

 それから、トランジットモール。これは、歩行者道路に公共交通だけ入れるというのが、トランジットモール。自動車は入れない。日本には、我々が、ここ20年間ぐらい主張して、いろいろと推進してますけど、いっこうにできません。欧米のは多用してあたりまえです。

補助金と連携システ

 それから、設備補助制度は、日本は、路面のみとなってますけれど、これ実は書いたあと気がついて、最近になって運輸省が車両費補助というのをわずかながらするようになりましたので、車両費補助が少し出ます。欧米は全部補助してくれます。

 それから、運輸費補助制度は、日本ではありえません。向こうは出やすくて、だいたい平均70%です。ですから運賃収入は、運営費の30%しかない。一番ひどいのは、90%補助してもらってるのがあります。で、そこらあたりの問題が、これからいろいろ議論になるはずです。

 それから、バス、鉄道との連携。日本は接続悪くて、終バスなんか、終電だとですね、バスが待っててくれないで、「あー行っちゃった」ってですね「しょうがない、タクシーだ」、あるいは「自家用車のあいのりだ」ってなりますけれど、向こうはちゃんと連携して、電車が遅れたら、バスがちゃんと待ってくれます。そしてそのバスで行けるように。ここが日本は、それぞれの企業が独立して動いているのに対して、向こうは連携システム。それから運賃料金も一貫的です。例えばアメリカやなんかだと、鉄道のところで、切符を買うと、それで1時間以内だったらバスがただで乗れます。

 それから、これがいろんな交通手段の中の特徴で、見ていただきたいのはどこかって言うと、LRTが非常に最近重要視されだしたのはどこかっていうと、プラットホームへのアクセスです。ほかの交通システムはみな、エレベータ、エスカレータがいるってことです。階段を克服するために。それが無くてすむわけです。そこにコストが安くすむ、有能なシステムこういう話になってきます。

平均速度の比較

 それから、さっきのスピードの話ですけれども(図―13)、横軸が、平均速度でありまして、一番上がアメリカのクリーヴランドで37km/hって速さですけれども、それから、一番下に5つあるのが日本です。全部15km/h以内です。東京が速いのは、これは専用軌道になっているわけですね。ですから、それで一番速くて、あとはみんな10km/h〜15km/h。で、向こうは15km/h〜40km/近くまで。もう圧倒的な差を見せつけられています。ですから自動車と競争できます。

 実はですね、この絵じゃちょっと見にくいですけど、私たちの仲間がストラスブールへ行って、始点から終点までずっと、ビデオカメラをうつし続け、とってきたのを、帰ってきてから、全部ストップウォッチで計算して、いろいろとデータを出しました。それにあわせて、東京の荒川線、世田谷線、豊橋、あるいは広島の各電車を同様な調査をしてみると、こんなことがわかってきます。

 ストラスブールだと走行速度が30.2km/h、表定速度は24.8km/h、一時停止時間は0。この一時停止時間っていうのは、停留所で停まるが、停留所以外のところで停まったら一時停止。信号でも、なんか自動車との関係で遮断されたとか。広島の路面電車でみると、走行速度20.7km/h、表定速度11.2km/hで、全路線を通じて一時停止時間は384秒という事ですから、6分ちょっと。全路線長の5.5kmを行く間に6分も余計に停まっているわけです。これはだいたい、19区間ありますから、その中で、1区間あたり平均20秒その累積でこうなった。

 ストラスブールと広島で比べますと緑色のところが走行していて、全体を100%にする82%は走ってます。で、18%のところが停留所で停まっているわけです。それに対して広島といって成績が悪いもんですけれども、50%を走ってて、4分の1、22%は停留所で停まってて、一時停止し、25%が途中、信号やほかの妨害で一時停まっている、これだけはロスなので、スピードが遅くなるということです。だからスピードを上げるために、どうしても、優先信号システムをやらなければだめなんです。

路線構造の分類

 で、日本の、欧米における路線構造の分類を見ますと(図―14)、日本は地上だけの路線ですけれども、外国に行くと、地下の部分が適当に都心部だとか郊外にうまく使ってます。地形を使ってですね。

 それから、路線の状況を見てみますと、日本と西ドイツの地下構造の採用比較というのを見ますと、黄色の三角が西ドイツの地平型、丸いのが西ドイツの地下型、黒の四角が日本型、といいますと、日本のは全部、営業キロが25km以下です。ところが、向こうは150kmまでおよんでて、長くなればなるほど、地下を利用しています(図―15)。このように地形を巧みに利用するんですけど、日本では、法律によって、路面電車が地下を行くなんて許されません。ですから、枚方の計画でも地下を行ったら、なんて話があるそうですけど、大変な話です。法律を乗り越えるのに。

 それから、これが、併用軌道か専用軌道か(図―16)、いわゆる自動車と共存した形になるのか、自動車と分離した形になるのかというと、日本は残ってるのは、東京や広島は、専用軌道が半分以上残ったわけですけれども、海外に行くと、ほとんど専用軌道。専用軌道といっても、自動車が入らないように完全に分離したところも、専用軌道型になっています。

低床式車両

 それからさっきのお話しです。この高床式、低床式という話ですけれども、従来の路面電車はあのように1、2、3と上のようにステップを70〜80cmあがる必要がありましたけど、今は、下のようにするっと多少の差をスロープを乗り越える形でできてしまいます。こういった方法もいろいろな種類があります。一番の問題は動輪(黒い車輪)です。動輪というのは、両方が繋がってモーターに連結されていますから切り離すことができません。そこで最初10%低床式といって真ん中だけ低くします。ところがそれじゃどうもうまくいかないというので、70%低床式といって両サイドに動輪をもってきます。さらに100%低床式は動輪がありますけれど動輪の車軸を切ってしまって、独立にして物理的な軸でコントロールするのではなくて、コンピュータコントロールします。こういう形に技術革新しまして、日本がもたついている、寝ている間にヨーロッパ、アメリカの技術がどんどんこのように、技術革新で変わってきて21世紀型になってきてます。

 これがオーストリアのウィーンにある一番の低床式ですが、一番下のところあたりを見ていただくと簡単な動輪の軸が、ただつなぎのシステムだけになっている。そして、モーターはこういうところにある。日本は床下にありますが、サイドにもってきた。その結果、向こうの宣伝にあるように、乳母車も赤ちゃんも自由に出入りできる低床式の乗り物とこうなってきました。おもしろいのは、ウィーンの17センチ低床式というのは、うまくセットで作るようになっていましてこれは7両編成セットですが、いわゆる車軸やモーターが入っているのがこれがこういうやつ、人が乗る客車部分があってそれを4両連結型でも7両連結型でもユニットでうまく作り変えて作ることができます。

運営財源の仕組み

 これが今度は平均輸送密度(図―19)、1日1kmあたり平均何人乗せて運んでいるか、というと日本は、日本全国でだいたい2700人/km・日、一番優秀なのは、東京の世田谷線ですが、9千人/km・日運んでいます。それでも赤字でヒーヒー言っている。多少黒字になっていますが、つらい仕事です。ドイツだと、だいたい2千人/km・日、北米だと1300人/km・日。こういう形で、欧米の乗車密度の少ない方が、実入りが少なくてできないと思うのに、実入りが少ない方がどんどん新技術で新しい車両で新しいシステムを建設して、実入りが多い日本の方は政府から見放されて、君自分でやりたまえ、こう言われているものですから、ヒーヒー言ってどんどんつぶれていく。こういう皮肉な状態です。

 それから、じゃあ運営財源がどういう風に負担しているかというと、建設費はほとんど丸かかえで出していますから外国は、ドイツは国が50%、地方自治体が30%、事業主体が20%、イギリスは国が75%、地方自治体が25%、アメリカは国が75%、運営自治体が25%とこういう形でやっています(図―20)。

 そこらあたりがよくわかるのは、皆さんがヨーロッパに行かれて電車に乗って運賃を払うと、日本と変わりない。日本より安いよ、これだけ安くてもやっていけるのになぜ、日本は高いんだ、というのは大間違いで、物事の表面だけ見て実態がわかっていないということです。たとえば、東京の黒字でがんばっている、京王、東急、東武、西武、小田急なんていうのは(図―21)、初乗り、だいたい140〜150円ですけど、全部身銭を切って考えられる採算の取れる運賃です。ところが、ロンドンからフランクフルトまでは、全部青がありますけど、青がこれは補助によって支えているんで、実際は日本の運賃の2〜3倍取らないと向こうはやっていけないんですけど、そういう形で仕組みが違います。仕組みの違いを十分理解しないと、我々は外国がやっているから日本もやれるというのは無理な話です。

バスと共存した街できなかった街

 それからこれは、ハイデルベルクにあるバスターミナル(写真―8)ですけど、そこへ行って驚くのは、バスが停まっていますけど、乗換えが簡単にできるんですね。どうしてだろうと思うと、入り口が両側扉なんです。日本は全部片側扉ですから、バスが同じ方向に止まったバスターミナルがあったら、ぐるりと前か後ろを回っていかないと乗り換えられないんですね。向こうは両側ですから、降りたらすぐ向かいの扉から乗り込めばいいんです。それは、運賃がチケットキャンセラーになっているからできるわけです。これまでバスは改良されているわけです。そういうことでLRTがいいぞいいぞと言いますと必ず反論も、欧米に行かれた方で、何、イギリスのシェフィールドへ行ってみろ、あそこは失敗だよと、こういう風に言われるわけです。これがイギリスのシェフィールドのLRT(写真―9)です。このように政府が一生懸命になって補助金を出して作りました。ところが、イギリスは、バスの自由化、今日本も規制緩和で自由化にいよいよなろうとしていますけども、したがって、バスがここで経営しているのにこんなLRTに来られたら商売敵だというんで、徹底的にバスのダイヤで運行妨害を始めるわけなんです。ヘッドを縮めたりして、そしてさらに悪いのは、この路線が大体需要の少ないところ、というのは、道路が路線を入れられるところ、交通の少ない、家の少ないところを通っているわけです。したがって、もともと需要が少ないのに、そういうことをやられたので、とうとうこれは、音を上げてつぶれまして、そしてそのつぶしにかかったバス会社に吸収されております。そのことより経営状態がどうなったか私にはわかっておりませんけど、そういうことで現状を検討しないとだめだということがあります。

フランス・ドイツの事例

 さて、どうしますかな、本当は、時間がもうだんだんなくなって参りましたので。フランスでは、1960年代にいっぱいあった路面電車が1980年までになくなって、僅かにサンテティエンヌ、マルセイユ、リールのこの三都市だけが、1980年代にやっと残っていたのが、そのときからだんだんとこのLRTの問題で復活をしようということでトラムを作るということで、黒ポツで黄色に塗ってある都市(図―22)で次から次へと建設を開始しました。そして、左上にあるカーンとブレストは投票の結果、否決しましたけど、カーンはまた再度検討して進めているところです。ここらあたりの話がいろいろあるんですけど、時間の関係で、危なくなってきましたし、ストラスブールはもう皆さんが何回も説明をされています。だから、省略させていただきます。

 ついでにちょっと、皆さんに説明していないもので、これはパリです。パリはモデル   のようになっていますけど、青い線がセーヌ川です。ちょうど、セーヌ川のところに菱形の島が二つありますが、そこがいわゆる中心部のところで、ノートルダム寺院があるところです。皆さんが観光で行かれる所。一番北のところに地下鉄のターミナルがあります。昔の城壁のところですけど、あそこの赤いところ、サント二線というのですが、それを地下鉄でやろうか、バスでやろうか、LRTでやろうか議論され、結局のところLRTでやりました。これが70%低床式のLRTです。この道路上は昔の城壁の線ですけど、現在環状線になっていますけど、LRTはここで活躍して、好評でセーヌ川渓谷やいろんなところにだんだんと増設されています。

 ついでにこれはカーンで議論になったLRTのモックアップです。これはおもしろいのは、真ん中に一つの線路がありまして、それを挟むような格好で一本の路線を使っていくモノレールタイプで、しかもタイヤ輪ですから、日本のガイドウェイバスでやってるのに似たようなシステムなので、これが出てくるとまた面白いなと思います。

 それから、ドイツについては、このように路面電車を存続した街、再整理した街、延長した街、いったん止めたけどまたいれた街、というような形で、いろいろ結構やってます。この中でおもしろいのはカールスルーエのタイプ(写真―19)ですけど、これもこの前の資料を見ると説明されていますので、時間の関係で図だけ見せておきましょう。カールスルーエ(図―28)は、真ん中の細い線で土地があるのが、昔からの路面電車です。紫の大きな丸があるのが、大きな駅のところです。それに紫の太い線が連邦鉄道で、これとの相互乗り入れをやっています。そして、見事路面電車と郊外の連邦鉄道の相互乗り入れに成功成功しています。これがドイツ新幹線とLRTが一緒に並んでいる姿です(写真―20)。これは相互乗り入れでやっていますので、低床式ではなくて、高床式になっています。それからあとは写真ですから、次に移ります。

公共交通に対する公的支援

 結局、都市交通の基本的視点といって、実はこれは今から4年前に私が都市計画中央審議会の街路部会長をやっていたときにいろいろ主張してやって結論を出した話なんです。これでLRTの追い風にしようとしたんですが、モータリゼーションと都市化の急激な進展から安定の流れの中で、都市交通施設整備からの視点ではなく、都市交通利用者の立場からみたモビリティーの確保と都市生活者の立場から見た良好な環境の形成といった視点から都市交通を再構築することが必要である。

 こういう結論を得るには、最初はもう審議会で大騒ぎです、部会長は横暴とかということで、だけどだんだんとみんな理解してくれて、よし出そうじゃないですかということになってきます。で、公共交通システムは、大量の交通を処理できるため、通勤通学交通に適した交通手段であり、自動車交通が制約される交通弱者に不可欠な移動手段である。しかし、モータリゼーションの進展により、大都市中心部を除いて、サービスレベルは低下し、利用者も減少傾向にある。これが認識ですね。そこで結論は、今後は環境の保全・改善、導入空間の確保と採算性の制約の中で公共交通を都市の装置として位置付け、要するに公共の道路は税金でやっていますので、採算性なんか言いません。それと同じように都市の装置として採算性は言うな、そういうことで位置付けて公的支援することを充実することが必要である。こういうことで、これを建設省の審議会の最終報告としたわけです。そこでどういうことかというと、今までの公共交通システムで、特に新交通システムなんかで考えると(図―29)、必要な要素として、(a)の走行路面や軌道等の基盤施設がここでいうと赤色の部分です。それから、2番目、(b)が緑色、車両等の設備類、(c)の何もつけないのが運行や経営にかかる経費となっています。在来は、(a)に対しては補助がありますけれども、(b)に対しては補助がない。そこで(a)も部分的な補助で、たとえば、引込み線や車両基地や駅に対しては補助がないんですね。ここも補助しろよと、100%補助しなさいと軌道だけじゃなくて、緑色のところもやんなさいよ、そして最後に運行にかかる経費にも補助しろというのもなかなか現在日本ではできないけれども、さっきからお話していますように、外国と比べて需要は倍以上あるわけですね、外国と違ってこの上のインフラさえ全部やってくれれば、経営はうまくいくはずだ。それでもうまくいかないところは、ちょっと今まだ無理じゃないか。それをやるんでも現在必要性があるということで騒いでいる都市は全部できるよ。こういう話になっています。

 公共交通政策に対する提案として都市計画審議会の答申は、市民の足として必要な路線や自動車利用の適正な方策として必要な箇所に都市の装置として積極的に導入運行し、このため公共交通の企業性競争性は確保しつつ、関係省庁の連携、これは公共交通というのはみな問題になるのは建設省は一生懸命ガソリン税の問題で最近公共交通に手を入れていますけど、元は運輸省です。それから警察がいろいろやっています。それから車両なんかのいろいろな基準は通産省がやっています。それから地方財政の援助は自治省がやっています。それから身障者、高齢者の問題は厚生省がやってます。法律は法務省がやっています。こういったところがみんな連携して、公的支援を拡充しないと、大蔵省がお金持っていますし、これが全部連携しないと、一つの省がいやだといっただけで、どうにもならない。それから、公共交通に必要な基盤施設を公共が整備する。公共交通の計画整備施行運営の調整実施のため、協議組織を作る。地域ごとに協議組織を作ろうという話を出したんですけど、ここらあたりの話は結局審議会の答申倒れということで、一向に進んでいませんが、ただいくつか進みました。それは、熊本にこのように新しいLRT、ドイツのアドトランス製のもの (写真―25)を導入しました。さっき言ったように、これは2億1千500万の品を日本に持ってきて、改造して、三両連結を二両連結にして短くして、2億1千万になったというバカげた話です。そして、のらくらと走っている。その時に考え出したものが平成9年度に建設省が新規事業としてガソリン税を使って、路面電車走行空間改築事業を創設しました。道路交通の円滑化のために、道路改築の一環として路面電車の走行できる路面等の整備を行う事業、在来は皆、市の交通局あるいは民間の路面電車の会社が特許申請して自分のお金で道路の専用区間の工事を道路管理者に許可してもらいながら自分でやるということだったんですけど、都市計画事業者、道路管理者がやっちゃおうよと、しかもガソリン税を使って、とこういう話をしたわけです。それは既存の軌道の場合であります。

魅力ある交通システム

 今度は、枚方みたいな場合は、今まではだめだったんですけど、平成10年度からできるようになりました。路面電車の走行路面等の整備ということで、既存の道路区域内において路面電車の延伸、新設ということに係る走行路面の整備を行う改築で、路面電車の活用で道路交通の円滑化が可能なもの。

 さあこれが難しいんです。枚方みたいな場合に道路交通の円滑化が本当にできるかどうか。それから走行路線の改良が都市計画区域で都市計画決定することが前提になっております。

 さてそれで実現に向かって検討すべき点は、どういうことかといいますと、まず、やっぱり、採算性というのは外国みたいに言うなとこういうわけですけどなかなか今そんなことを言ってたら相手にされません。ですから少しでも、ハードルまではちょっとでなければいけません。ちょうど試験でいうと、先生あと2点足りないんですというんだったら、なんとか情状酌量があるんでしょうけども、先生あと50点足りないですなんていったら、これは相手にされません。

 ですからそういった点で考えると、駅周辺の街づくりをして需要を増やそう、それから交通システムの連携をすることによって需要を増やそう。なぜかというと、皆企業の方々は相手の会社が敵だと思っているわけです。ですから、特に大きい会社ほど他社が入るということを拒否します。連携をできるだけ悪くして自分が独占しようとしているんです。あなたそれは19世紀の考え方で、相手は自家用の乗用車なんだよ。そうするとそれらが仲良くして乗り換えを容易にしていくということが大事なんです。

 れから、魅力ある交通システム。魅力のないのはだめなんです。魅力は何かというとスピードアップということだと思うんですね。

 それからその次が自動車交通のコントロールです。これを言ったとたんに、大体どこの発表をしているところでも若い人たちが、じゃあだめだ、ということを言うわけです。で、私が言うんです、自動車というのは非常に便利なおいしい乗り物だ、私も20代、30代のときはもう自動車交通をよくするために、大体私が計画した高速道路は首都高速道路、阪神高速道路、それから中央道、東名、名神、大阪ですと、中央環状、みんなやってます。だけど、それをやってきた男が限界を感じて、やはり自動車交通のコントロールしようと言っているのです。現在ITSと言うことで、自動車を本来の自動車化してコントロールするということがこれからは21世紀の時代で2015年ぐらいまでにはかなりいろんなことが、国民の合意さえ得られれば、だんだん技術と財源の問題でできるようになってくると思うんですね。それから、私鉄供給側の努力としては、やはりコストを軽減しなきゃだめだ。親方日の丸ではだめです。それから国の制度、財源の改革、上下分離方策、地方財源の確保、市民へPR、市民と理解と合意が大切な課題です。

法制度問題

 何が阻んでいるかというと、ここらあたりで法律の問題なんですけど、軌道法、軌道運転規則がある、これはさっき言いましたように、最高速度は毎時40km以下で、平均速度は毎時30km以下じゃだめだ。ですからスピードを出せても出せません。それから最高速度はこのように道路交通法の22条で、最高速度を定める値というのは、さっきの40kmですね、これを超してはいけないと、ダブルでしばってます。それから道路交通法施行令では自動車にあっては60kmってなっているんですけど、原動機付自転車は30kmっていうんですけど、何で路面電車は60kmじゃいけないのか。最初から40kmに抑えられていますから格差をつけられているわけです、勝負あったと。

 それから、長さもこのように30m以内ということで抑えられて、最近では運輸省の軌道法の緩和規定ということでずいぶんゆるくなっていますけども、ケースバイケースです。

 それから、一番の問題が、これは中尾さんも言われてるんですけど、「無効ノ乗車券ヲ以テ乗車シ、又ハ乗車券ノ検査ヲ拒ミ、若ハ取集ノ際之ヲ渡サザル者」、要するに違反者ですね、それは相当運賃及び2倍以内の増運賃というんで、3倍、そうすると、100円だったら200円の罰金で、3000円取られる。これじゃ、いくらでも払うよ、とこういう話になっちゃう。そこで議論になるのは、軌道と違って鉄道はどうか、鉄道で違反したらどうなるかというと、鉄道営業の方の罰則は、これはやはり、明治に定められてきた50円なんです。ところが、50円じゃ話になりません。そこで、これは罰金等臨時措置法という法律で、2万円と読める、とこういうふうになっていますから、鉄道の場合には罰金は2万円です。ですから、軌道法もこの臨時措置法の仲間に入れてもらえば、法律で軌道法も含むとやればそれで済むわけなんですけど、なかなかやってもらえません。

 それから、勾配は千分の40なんですけど、ただし特殊な箇所においては千分の67までといわれて、これは箱根登山鉄道がそうなんです。だから、現在67までいいよというんですけど、67にするとどうなるかというと、新しく作った1両や3両のLRVは使えますけど、従来から使ってた四十何両や五十両という在来の路面電車は全部アウトで、作り変えなきゃいけませんから、そのお金がないからやっぱりやめようという、そういう話になるわけです。ですから、車両費の絶対的な援助と、日本はだいたい今、国は15%ぐらいしか援助していないですよね、市やなんかが負担して30%ぐらいです。外国は、国が50%で市がさらにありますから、ぜんぜん楽なんですね。そこで、技術革新の塊が使える。

これからのLRTにむけての課題

 LRTに向けての課題ということで、まずどうしたらいいかというと、やっぱり、車両の革新化、人に環境にやさしい高機能化、これで魅力あるシステムができる。それから、軌道等建設の援助をしてくれる。これはで、この上の赤丸をしたのが、日本でもこれを書いたあと、みんな変わりました、それで赤丸になりました。新車両の増強整備、これはちっちゃい丸なのは、まだ援助が足りないよ、リース制は熊本の車両は15年賦のリース制ということで少ない費用で毎年お金を投入することによって、何とか車両を1両じゃなくて、3両でも5両でもしようということでやっています。それでちょっと良くなった。それから、交通システムとして改善ということで、革新的なことに、ここにあるような7つの項目がありますけど、速度の規制緩和、車両長の規制緩和、交差点の優先信号、これは警察との問題ですね。それから、トランジットモール。これがまたむずかしい。一番むずかしいのが、チケットキャンセラーシステム。それから、鉄道・バスとの連携、これがまたむずかしい。自動車との連携、これがまたむずかしい。こういう話を全部解かないと、革新的な、21世紀型のシステムができない。このためには、都市交通の中での位置付けの革新、革新的な考え方でやっていかなければいけない、ということになります。

 時間をオーバーして申し訳ありません。ここらあたりで、終わらしていただきます。

 どうもご清聴ありがとうございました。


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