枚方LRT研究会第4回総会     2001年5月20日      

特別講演@ 「環境保全都市を目指して」

枚方市長 中司 宏氏

みなさん,こんにちは.お招きをいただきました中司でございます.今日この総会で提言をいただきまして,少しご挨拶をさせていただくだけだと思っていましたが,講演の講師ということで,ちょっと当惑しておりますが,せっかくの機会ですから,お話をさせていただきたいと思います.さきほど総会の後に,この提言をちょうだいいたしまして,読ませていただきましたら,現実にですね,実現に向けては,かなり高いハードルがたくさんあるのも事実であります.しかし,枚方のまちづくり,枚方を良くしていこうというみなさん方の熱い思いを受けとめさせていただきながら,地球環境や高齢者にもやさしいまちづくりを一歩ずつ着実に進めていきたいと思っております.

21世紀のビジョン

本市では21世紀のビジョンとして,2つの大きな柱があります.1つは市民一人一人が環境意識に目覚めた,環境保全都市をつくっていくこと.そしてもう1つは枚方市にあります6つの大学を中心としながら,あるいは,教育関連機関それぞれ連携をしながら,子供たちから高齢者までが世代をつないで,心豊かに学んでいける生涯学習都市をつくっていくこと.この2つは,つきつめて言えば,共通するところがあります.本当に大切な価値を,心を豊かにするといいますか,そうした価値を見出していく,そして一人一人の生きがいづくりのお手伝いをしていくことだと思います.

環境保全都市の構想につきまして少しお話をさせていただきます.今年から21世紀がスタートいたしましたが,20世紀が大きくもたらした文明は戦争や環境破壊など,マイナスの遺産も多く残してしまいました.こうした反省から新しい世紀は一人一人が本当の豊かさである心の豊かさに目覚めながら,お互いに支えあい,助け合う社会にしなければならないと強く感じております.

地球温暖化防止京都会議

 特に地球環境問題は早期に解決をしなければならない最も大きな課題の1つだと思います.様々な提起がされる中で,1992年にリオデジャネイロで地球環境のサミットが開催され,5年後の1997年12月に世界の160カ国が集まりまして,地球温暖化防止京都会議が開催されました.先進国や発展途上国それぞれのエネルギー政策に対する思惑の違い等もあり苦難の末に京都議定書が採択をされました.

京都会議では,温暖化防止に向けて,地球規模でまず行動を起こさなければならないということでひとまず世界的な共通認識ができる土台をつくることになったと思います.これをきっかけにわが国でも地球温暖化をはじめ,オゾン層の破壊やダイオキシン問題,環境ホルモン,そうした地球環境の問題がクローズアップされ,例えばオゾン層でしたら,昨年南極のオゾンホールが過去最大南極大陸の2倍,日本上空でも最大30%以上のオゾン層の減少をみている.20年後には,3分の2のオゾン層が破壊されてしまう.そんなことが報告,予測をされているところでございます.環境ホルモンでは,ある種の除草剤でカエルが,生殖異常を起こしている,そんなことも叫ばれているところであります.

当時国連は,100年後の地球の平均気温の上昇を約2℃というふうに予測をしていましたが,最近この数値が3.6℃と大幅に修正をされました.

今後急ピッチで温暖化が進んで,あと20年もすれば,後戻りできないほど,ダメージを受けてしまう.そんな予測がされています.

しかしながら,温暖化の原因となる二酸化炭素の削減目標は,国によって大きな差がありまして,ヨーロッパでは20%を目標に努力をされて,アメリカでは,この京都議定書にも離脱をするというような表明がされました.大変残念なことでありまして,日本でも6%の削減目標ですが,実際には逆に9%増えるといった大変残念な状況になっているわけであります.

CO2排出問題

かつての高度経済成長時代には,大気や水の汚染は,社会問題となりましたが,この場合は,水や空気を汚染している汚染源を,特定することが可能でありました.その対策は行政レベルで,つまり公害を阻止する法律や条例を制定して企業の規制,そうしたことに努めれば適応できる部分があったわけでありますが,現在の地球環境問題といわれているものはそうはいかない.CO2の排出を抑制するその排出源を特定することはできない.大量消費,大量生産の社会構造そのものを変えなければならない.価値観そのものを変えなければならない.そしてその影響もCO2が増えたからといって急激に目に見えるようなものではなくて,20年後,30年後がこうなるという予測しかない.法律で人々の生活を強制的に取り締まるということはなかなか難しい状況にあります.しかし,今こうしている間にも着実に地球が蝕まれているという現実を直視をしなければならないわけであります.

平均的な家庭の場合,CO2年間排出量の3分の1以上は,自動車から出るものだと言われています.私たちは,例えば宅配便を使うとか,何らかの形で車社会とは切っても切れない生活をしている.ごみ問題も含めて現在の環境問題は,こうした誰もが,環境に対する被害者であり,誰もが加害者であるという状況になっています.先日環境省から地球温暖化で,100年後,わが国が北日本で5℃,南日本で4℃気温が上昇するショッキングな予測が発表されました.世界平均の3.6℃を大幅に上回って,このまま放っておくと,海面の上昇による水没の被害や異常気象により農作物に深刻な影響を与えかねない.生態系にも影響を与える.こんな状況でございます.

枚方市のゴミ問題

地球温暖化問題をはじめ,環境問題は,先送りのできない重要な課題であり,次の世代に取り返しのつかない大きなツケを残さないことは,今を生きる私たちに課せられた大きな使命であります.しかしながら,私ども地方自治体で行える対策には限界があるのも事実であります.しかしながら,できることを最大限に行っていかなければならないという思いを持っています.

地球環境という大きな観点では,何も対策はできないという意識を持ってしまいがちであり,手の届かない問題ですが,1人ひとりが無駄を無くし,できるだけマイカーをさける,公共交通を利用する,エネルギーの削減を進めていく,贅沢をやめていく,1人ひとりの身近な行動の積み重ねが,環境保全への大きな原動力となっていきます.先ほど言いましたように,本市でも,環境保全都市を掲げて, 市民参加で様々な環境対策に力を注いでおります.今一番頭を痛めておりますのが,ごみ処理の問題であります.ごみの量が多いときには,現在の処理場の能力を上回ってしまい,他市にごみの焼却をお願いしているようなパンク寸前の危機的状況が続いているのが,現在の枚方市のごみ問題であります.

もちろんダイオキシン対策など環境面で,世界最高水準の施設をできるだけ早くつくりたいと考えております.しかしながら,いくら立派な施設をつくりましても,ごみを焼くこと自体,CO2がたくさんでてしまう.焼却灰の処理もしなければなりませんし,根本的な解決を図るためには何よりもごみの全体の量を減らしていくことが重要であります.ごみ問題をすべての市民の問題ととらえて,1人ひとりが使い捨てのライフスタイルを見直して,身近にごみの減量とリサイクルに努めていかなければならない.

今枚方市ではごみの半減を目指して,リデュース,リユース,リサイクルを基本としたごみ減量作戦を市内全域で展開しております.

これまでにごみ袋の透明化や粗大ごみの個別収集,ペットボトルの拠点回収,空き缶の回収,家庭用生ごみ処理機の購入費の補助等,様々な施策を進めてきました.現在,スタート時よりもだいたい13%というごみ減量の数値がでてきています.徐々に効果を上げてきておりますが,しかし当初の目的であります10年間で,ごみの半減,50%のごみを削減するためには,少なくとも8割の市民がルールを守って協力をしてくれないとごみの半減化はいくら制度を変えても達成できません.

今後もプラスチックの分別,すぐにごみになるものを買わないとかそうしたグリーンコンシューマーの育成にも努めるなど,消費者行政にも環境保全の視点を浸透させていきたいと考えています.

枚方市の環境に対する取り組み

そして市民の皆様に理解を求める,協力を求めるためには市役所自らの意誠改革も当然大切なことであります.本市では地球温暖化防止京都会議にあわせまして,温暖化防止のための緊急行動指針をまとめまして,庁内での節電や古紙のリサイクル,公用車のアイドリング防止などに努める一方で,オフィス内でのごみを削減するとか,身近なところから取り組み,エコオフィスの推進本部を設置しました.

現在環境規格ISO14001の認証取得を目指して推進本部で準備をしています.このISO国際規格14001は自治体,企業などが,環境に配慮した活動をしていることを認めてもらうという規格であります.なんとかこれをクリアして,環境保全都市の第一歩を記していきたいと考えております.

それから環境問題は,また心の問題でもありますので,私たち1人ひとりがものの豊かさではなくて,心の豊かさに目覚めて,ライフスタイルを変えていくという観点で,21世紀を担う子供たちの環境教育,心の教育は,豊かな地球環境を守る意味でも重要だと考えております.

そこで教育委員会と連携いたしまして環境教育をやっていこうと,学校菜園とか,ビオトープをつくっていくとか,そうした取り組みに着手をしておりますが,一昨年からレンゲ栽培米支援事業をスタートいたしました.昨年も今年もレンゲ畑で満開のレンゲを市内でも見かけることが多くなりました.これは市がこのレンゲ栽培米の支援事業を行いまして,レンゲの栽培を奨励する,農協や農家の協力を得て,取り組んでおります.このことにつきましては,稲作の前にレンゲを栽培して,土の中に窒素を含ませて,化学肥料の使用を極力抑える等,そういう環境保全型農業に切り替えていくことが,大切なことでありますが,しかし農家のほうが,真剣にこのことを理解して協力してもらわなければ,なかなかできません.

昨年の秋にはじめて収穫いたしまして,小学校の学校給食にこの地元のレンゲ栽培米を取り入れました.今年も栽培面積を2割ほど増やし,今後も奨励して,地元で生産された低農薬で,化学肥料の少ないおいしいお米を,子供たちをはじめ市民に提供するということで,自然の大切さやものを大切にする心を大事に育てていきたいと思っています.

また環境意識の輪を広げるために市民の皆様あるいは事業所に協力をいただきまして,エコフェアーを毎年11月に開催をしております.フリーマーケットとか,高校生によるエコファッションショー,これはリサイクル用品を使ったファッションショーです.それからリサイクルアートも注目を集めました.
また,この春から市民の団体と市の職員とが協力をして,駅前とか公園の清掃活動を早朝ボランティアで行っております.

今後も様々な取り組みを重ねる中で,行政と市民,そして利用者とが一体となった環境ネットワークを作っていきたいと思っています.

公共交通整備改革

そうした環境問題も含めまして,本市では京阪グループなど関係機関と協力をして,公共交通網の整備促進を進めています.電車,バスなど,公共交通網をできるだけ利用していただく,あるいは利用してもらいやすいような整備をしなければなりません.

特急電車の早朝,枚方市駅の停車なども働きかける一方,光善寺駅の駅舎も一昨年に完成し,これから,牧野駅前の広場の整備や,JRでは長尾駅前広場の整備など,できるだけ市民が利用しやすい公共交通へ,市も協力をしながら整備していく努力をしなければならないと思っています.

また,市駅から,市民病院や厚生年金病院などを循環する100円バスの運行をこの3月末からスタートいたしました.この循環バスは本市が京阪バスに働きかけて試験的に運行をスタートさせたわけですが,こうしたことを通じて,公共交通機関の利用の促進をしていきたいと思っています.このバスは低床式ワンステップ車両を使用し,従来のバスに比べると,乗り降りが楽だということで,高齢者などには好評を得ていると聞いております.それから空港への足となるリムジンバスの運行では,従来関西新空港だけでしたけれども,4月からは伊丹空港への直行バスもスタートしました.また,市内のバス空白地域を無くしていけるよう働きかけているところです.

今日は京阪宇治交通の社長もおいでいただいておりますが,小型のコミュニティバスを樟葉地域などで,運行していただくということも現在調整させていただいています.

こうした地球温暖化の防止や高齢化対策を進めるためにも環境や人にやさしい公共交通を重視したまちづくりをこれから進めていかなければなりません.

その他の取り組み

もう1点は,この7月3日に枚方宿歴史資料館をオープンいたします.周辺地域では,旧京街道の枚方宿を中心に,歴史街道の整備を進めて,まちの魅力づくりに,つとめています.その中心として歴史資料館をオープンさせるわけです.こうした歴史街道の整備とあわせて,水上交通,舟運の復活ということも考えております.これは公共交通という側面からもとらえることができますし,防災対策や川を向いたまちをつくっていくという観点,そして環境教育とか環境面でも川を向いた事業をすることは大変重要なことです.

そうした観点から水上交通,舟運を復活するために各自治体と大阪府と調整をしながら,できるだけ早く復活したいということで,現在進めています.そうした様々な取り組みの中で,本日こうして皆様方が21世紀の公共交通のあり方を考えるということで,LRTの導入に向けて,意欲的に活動を展開されまして,提言をいただくことは意義の深いことだと思います.

1人1人が意識を高めていくために

環境問題をはじめ,様々な問題を解決するためには,先ほどから申しておりますように,従来の枠組みにとらわれない新しい発想が必要であり,環境にやさしい,あるいは高齢者にやさしいLRTにつきましても,夢のある枚方をつくっていくための1つの方法であると認識しております.第4次総合計画の中で,新たな時代の交通環境を構築していくことに対しては,研究に値するものであると認識させていただいております.そしてもう1つは,これからのまちづくりは,行政と市民とが協働しパートナーシップを確立して,取り組むことが必要であります.そうした意味においても,今後とも皆さんと共に知恵を出し合って,環境問題をはじめ,様々な課題を1つひとつ着実に解決し,郷土愛を育める魅力のある枚方を築いていきたいと考えています.

このLRTを実現していくためには,8割以上の市民がマイカーから公共交通に切り替えていく,LRTを,利用していくんだという意識の高まりも必要ではないかと思っております.例えば,今枚方市では,残念なことに迷惑駐車や迷惑駐輪を撤去したり,これを防止するためのPRをすることなどでだいたい年間1億円近くの予算を投入しています.1人ひとりの市民が,こうした迷惑をかけない,ルールを守るということを本当に心がければ,そうした予算は必要なくなるわけですが,まだまだそういう意識の問題があります.

ですからLRTや公共交通の促進ということにつきましては,やはり,1人ひとりが,地球環境の問題や様々な観点から意識を変えていくことも必要である.そうしたレベルを高めていくための啓発活動を市のほうでもやっていかなければならないと考えています.

さて,もう1つのビジョンであります生涯学習都市,やはりこれからの市のあり方として,市民1人ひとりの生きがいづくりというものを考えなければならない,それぞれの市民が,自分が必要とされている,役に立つ,あるいは,まちづくりに参加している,そういう意識を持つことが,生きがいにつながっていくと思います.

市民団体と地方自治体

市内でも500を越えるボランティアや市民活動のグループがありそれぞれ,いろんな分野にまたがっております.そうしたボランティアの方々の拠点,ネットワークをつくっていくために,この秋には,村野小学校跡の教室を活用しまして,ボランティア,市民活動のサポートセンターをつくる予定です.

この構想につきましては,市民参加,市民公募で協議会をつくり,提言をいただきました.それをもとに現在,具体的な方策を検討しておりますが,こうしたボランティア市民活動のネットワークをつくる中で,市民全てが支えあい,助け合う社会をつくる1つの処置にしていきたいと考えております.

また市民の皆さんと協働して,まちづくりを進めるためには当然,市役所自身が変わらなければならなりません.

地方自治体それぞれの状況が大変厳しい中で,本市でも,厳しい財政状況に陥っておりまして,平成11年度から3年間を緊急対応期間と位置付けまして,人件費の抑制,職員の削減など,まず,内部の努力を最優先に,そうした姿勢のもとに,行政改革を推進しています.

まだまだ不十分でありまして,今年度中に第2次行政改革推進実施計画の策定し,さらなる行革を進め,内部の努力を最優先にしていきたいと考えています.まだまだそうした動きが欠けているということで,議会からも指摘をいただいており,しっかりと進めてまいります.

またその中で,単に行財政改革は,その収支の帳尻合わせに終わらせるのではなくて,一番大事なことは,職員1人ひとりの意識の改革であります.  

本市では4月に特例市の指定を受けましたが,今後も職員の意識の改革を図りながら,政策形成能力や自治能力の向上に努めて,地方分権にふさわしい市役所づくりを目指していきます.

最後に

このあと,熊本市の話をしていただくわけですが,こうして皆様方が,LRTの問題を含めて,環境問題や様々な課題を考えていただくことは,本当にこれからの世界観や価値観,これからの方向性や目的,生き方を見つめなおすことにつながっていくように思います.

今後とも本市の環境保全都市や生涯学習都市を目指したこの行政の方向性の実現に向けまして,ご提案をいただきました,

このLRTの問題につきましても,これから研究課題といたしまして,できるだけ皆様方のご意見を取り入れるような,早く実現できるような方向性もにつめて検討,協議を重ねていきたいと考えております.

さきほど言いましたように,今日は提言をいただきましたが,まだまだハードルや障害がたくさんあって,なかなかすぐにはそれをつくっていこうということにはならないのですが,提言の重みを受けとめながら実現に向けて研究活動に努力していきたいと思っていますので,どうかよろしくお願い申し上げます.

この辺で私のお話を終わらせていただきます.

どうもご清聴ありがとうございました.


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