路面電車サミットin熊本 調査報告
期間: 2001年10月24日(水)〜28日(日)

1・「公共交通ルネッサンス・都市再生」

第5回路面電車サミットが去る10月23日〜28日の間、熊本市において開催されました。テーマは「新世紀の人・街、交通がめざすもの」。

独・カイザースラウンテルン大学 ハルトムート・トップ教授は、「路面電車とライトレールの革新」と題して講演されました。日本においてLRTを推進していくためには「政治家」との結合の大切さと言うことを強調されました。

デンマーク・王立芸術アカデミー ヤン・ゲール教授は、「公共空間を取り戻す」と言うテーマで講演をされました。車中心の街から人間中心の街へ転換していくためには、車によって占拠されている公共空間を取り戻すことの重要性を強調されました。

〈車中心の街から人間中心に街へ〉

コペンハーゲンにおいては、39年という年月をかけて毎年2〜3%程度の割合で駐車場を減らし、広場、歩行者用スペースを広げてきた(15,000uから100,000uへと7倍)。長期的な政策により、市民は徐々に交通手段をマイカーからバスや電車、バス、自転車へと切り替えていった。また自転車専用道路が拡大され、市街地への通学手段としては自転車、公共交通機関、マイカー利用がそれぞれ1/3ずつを占めている。現在、市街地を取り巻く環状道路に路面電車を走れせる計画もある。

〈公共空間を取り戻す〉

大まかに言って、都市計画には2つの相反する方向がある。北アメリカのように歩行や公的空間が消滅し、生活状況の個人化が進んでいる都市。他方、これとは逆に歩行者の環境を向上させることで公的生活を大切にしている都市である。こういった都市では人々の興味を引く様々な公共活動を提供する場として公的領域をうまく機能させている。

現状として、世の中は徐々に個人化している。だからこそ、歩行環境や人々の集う公共空間が今日の社会で大切な財産であるという認識を大切にし、公共空間を市民の手に取り戻さなければならない。

2・熊本市における高齢者パスについて

 サミット参加の機会をとらまえて、熊本市の「高齢者無料パス施策」を取材いたしました。

「さくらカード」と呼ばれていますこの施策は「高齢者・障害者・被爆者の方々にこれまで以上に社会参加していただき、健康でいきいきとした生活を送っていただくために熊本市が実施しています。」

高齢者や障害者にとって、外出できるということは、自立して生きていく上で極めて重要な条件となる。公共交通は、今や、単に人の移動を保障すると言う領域から、高齢者・障害者の自発的な活動や社会参加を促すと言う領域へとひろげつつあります。

枚方・LRT研究会公共交通部会が1999年に行ったグループインタビューにおいて、ある団塊世代の女性は、「枚方市は、寝たきりになった後の対策はして頂いているが、寝たきりにならない施策の1つとしてのLRT導入を是非実現してほしい。私達は、生活を楽しむと言うことを知っている。そのためには、使いやすい公共交通であるLRTが、是非とも欲しい。」と発言されました。

この問題意識から熊本市への取材をおこないました。

熊本市の高齢者無料パスは、70歳以上の高齢者・障害者・被爆者に交付されています。

平成8年10月から市長公約の1つとしてスタートしています。

自治体にとって「超高齢者社会への対応」重要な政策課題であるといえます。市長公約の1つとして実現されたと言うことは、超高齢者社会への対応としての市長自身の高度な政治判断そのものと言えましょう。

「熊本市の高齢者対策、元気老人対策のひとつに高齢者の方々にできるだけ家から出ていただくということ。これでもって病院にかかるお年寄りの医療費が下がればいいか、少しでもお年寄りが外に出て元気になっていただければいいか、が1つの導入ポイントになりました。」(本号における市原熊本市交通事業管理者の講演より)

初年度の財政負担は、年度途中からと言うこともあって3億円、平成13年度の財政負担は、6億円。この他に、人件費として2,000万円が計上されています。

〈パスの利用目的〉

通院:51.9% 買い物:37.8% レジャー:14.9%

〈使用頻度〉

週2〜3日:22.4%  週1日:17.4%  週4〜6日:9.5%  毎日:5.1%

以上のデータから何をどう読み取ることが出来るのでしょうか。

@ 一般的に高齢世帯は、比較的高い購買力を有しているという調査結果が出されている。週2〜3日以上、買い物やレジャーに出かけていることは、中心市街地活性化に大きな効果をもたらしていると言えないだろうか。

A 熊本市長及び武蔵野市長が政治的決断をなしたという背景には、次のような事情があったといえます。即ち、自治体にとって、1人の寝たきり高齢者が出ることは約900万〜1000万円の財政負担を強いられることを意味している。高齢者無料パスの支給、あるいは「武蔵野ムーバス」の運行によって、寝たきり高齢者を減らすことができれば、財政負担は軽減することができると言う目論見であったと言われています。
 現に、武蔵野市は、寝たきり高齢者を数十人減らしていると言う実績が報告されています。それは、「ムーバス」運行の社会的効果といえるものでありましょう。

B 高齢者の外出を保障することの重要性を自治体は、認識すべきではないでしょうか。

(報告者:貞方 徳憲)

  


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